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札幌高等裁判所 昭和26年(け)6号 決定

抗告人 吉田良一

主文

本件抗告はこれを棄却する。

理由

本件抗告の申立の要旨は、「申立人は昭和二十六年八月三十日稚内簡易裁判所がなした執行猶予取消決定の謄本を同年九月二日受領し同年九月六日当裁判所に対し即時抗告の申立をなしたところ、右申立は法定期間経過後になされたことが明らかであるとして同月十九日抗告棄却の決定があつたが、申立人は同月四日右即時抗告の期間につき稚内簡易裁判所書記官に対し電話にて問合せたところ『当地は離島の特殊地域であるから執行猶予取消決定を申立人が受理した日の翌日である同月三日から起算して三日以内に申立をすれば有効である』旨の回答を得たので同月五日即時抗告申立書を郵送し同月六日(申立書には七日とあるも誤記とみとめる)稚内簡易裁判所に配達されたことが明らかであるから本件即時抗告は有効であると思考される、よつて本件再度の抗告に及んだのである」というにある。

しかし刑事訴訟法第四二七条は抗告裁判所の決定に対しては抗告をすることができないと規定しその趣旨は抗告裁判所が高等裁判所なると地方裁判所なるとを問わず抗告審(第二審)としてなした決定に対しては抗告を許さないこととし再抗告を禁止し同法第四〇五条に規定する事由ある場合を除き抗告事件の最高裁判所への流入を阻止したるものと解するを相当とする。

しかして本件抗告は当裁判所第三部が抗告裁判所として昭和二十六年九月十九日為した抗告棄却の決定に対する抗告であることその主張自体に徴し明らかであるから本件抗告の手続は右規定に違反し失当である。又仮りに本件抗告を原決定に対する異議申立の意であると解するも刑事訴訟法第四二八条に依れば高等裁判所の決定に対しては抗告することはできない即時抗告をすることができる旨の規定がある決定並びに第四百十九条及び第四百二十条の規定により抗告することができる決定で高等裁判所がしたものに対してはその高等裁判所に異議の申立をすることができると規定せられその趣旨は之を前掲第四二七条と対照すると右に所謂高等裁判所とは第一審たる高等裁判所を指しかく高等裁判所が第一審として為した決定に対しても抗告を許さないこととし前段判示の趣旨を貫いたがしかし高等裁判所の決定と雖も過誤なきを保しがたいのをおもんばかり特に抗告に準ずる異議申立の規定を設けたるものと解するを相当とする。従つて本件異議の申立は前段説示に明らかな如く当高等裁判所第三部が抗告審として為した決定に対するもので同裁判所が第一審として為した決定に対するものではないからかかる異議申立の許されないことは最早説明を要しないのである。以上いずれの点よりするも本件抗告はその手続が規定に違反するから内容に対する判断を為すまでもなく刑事訴訟法第四百二十六条第一項に則りこれを棄却すべきものとして主文のように決定をした次第である。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 鈴木進 判事 東徹)

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